発刊の言葉<1946(昭和21)年5月21日付1面に掲載>


 日本はいま黎明期です。なにもかもこれからです。永い間、暗く壓へつけられた生活から、やつと解放されたばかりです。闇に慣らされた眼が、強い外の光線にあつてまぶしく戸惑ひの形です。大きな呼吸がしたくもあるし、腹ペコでその力も出ないといふ感じです。眼に青葉、山ほとゝぎす、初鰹の好期をむかへましたが、そんな乙な気分にふけるどころか人々は生きることに懸命です。どうしたら生きてゆけるか、これほどせつぱつまつた問題はありますまい。飢ゑにおびやかされるばかりでなく、悪性インフレ、失業問題、復員者、戦災者、外地引揚者、未亡人問題など、衣食住にからまる難問題は山積してをります。明るい面よりも、暗い面が巾を利かせて、人々は笑ひを忘れ、途方に暮れた形です。道義は地をはらひ、病気罪悪のふえやうは眼をおほはずにはゐられません。


 しかし失望するにはあたりません。これは我が民族に課せられた十字架の苦しみです。この歴史の宿命のなかから、明日の日本が希望と福音を抱いて生れんとしてをります。みなさん、心を合せてこの子を強く正しく育てやうではありませんか。かういふ使命をになつて、我が夕刊「名古屋タイムズ」は生れました。夕刊「名古屋タイムズ」は先づ母体名古屋を中心として大きな眼を瞠ります。それは中部日本諸地方に及び、さらにこの國の動きを見つめることに後れをとりません。それどころか、世界の目まぐるしい進展を正確につかんで、この國を迷ひ子にしないやうに導く用意を忘れません。世界の人々の福祉とこの國の幸福がピツタリ一つになるやうに、渾身の努力を捧げるものであります。

 されど私共の関心は先づ名古屋地方の郷土を中心とするものであり、こゝを足場とすることは申すまでもありません。かうして愛讀者諸君と手を携へて、或ひはその代弁者となり、或ひはその道伴れとなり、愛讀者諸君の眞の味方として、共に働き、共に泣き、共に笑ひ、住みよい郷土明るい日本を建設することに全力を擧げて進むことをお約束して発刊のことばと致します。

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